【開催後記】2019年11月3日 レイ・ブラッドベリィ『華氏451度』~書物の終焉?

Firefighter

主催者の藤沢です。

今回はレイ・ブラッドベリィの長編SF『華氏451度』をテーマにした哲学カフェを開催しました。

Philosophy cafe 20191103-1

本が禁止された世界で、本を焼き払う焚書官であるモンターグを主人公にした、ブラッドベリィの現代社会への危機感と本への愛が溢れた作品です。

表題は、本が自然発火する温度(摂氏233度)のことです。

有川浩の『図書館戦争』は、本作のオマージュですかね。

今回、この作品を選んだのは、ちょうど、文化の日にあたり、本好きの祭典「神田古本まつり」期間中でもあったので、あえて、本好きにとっての「最悪の悪夢」を主題にしました。

私も、気合が入りまして、この服装で出陣。

fahrenheit 451

↑早川書房から発売中のSF作品Tシャツ

で、実際、かなり気合の入った哲学カフェになりました(笑)。

『1984年』との異同

やはり、この本との比較になりますね。

ディストピア小説のもう一方の雄、ジョージ・オーウェルの『1984年』。

ナチスもスターリニズムも序の口の全体主義国家のお話。

この作品と華氏451を比較してみると、1984年が徹底的に上からの支配なのに対して、華氏451は、下からのディストピアではないかと。

快楽主義、「反知性・主義」の行きつくところの感があります。

確かに華氏451は、イデオロギー色の無い作品で、全体主義批判的な1984年と毛色が違う。

この「下からの」というのは重要で、華氏451の中では、大統領選挙があります(!)。

驚くべきことに民主制なのです。

しかし、この選挙は、候補の服装や容姿を問題にします(どこかの国の選挙みたいですが・・・)。

政策どころか人格すら問題にされません。「ファッションとしての政治」です。

オーウェルの専制に対し、ブラッドベリィは衆愚制を描きます。

スピードと快楽と

「下からの」という問題を更に掘り下げてみました。

参加者の方から、「正直、命令されたり与えられたりした方が楽。(考えて)自由に振舞えという方が苦痛」という意見が出ました。

考えるのは骨が折れることです。

それよりは、考えずに、誰かが命じたり、与えてくれたタスクをこなす方が楽であると。

もっと言えば快楽。

自分で考えて動いてボランティア活動するのは大変だから、「強制ボランティア」がいい・・・。

また、いざ「考える」といっても、社会のスピードがそれを許さない。

仕事に追われ、最新の情報や流行をチェックする。

時間はいくらあっても足りない。

SNS、分けても、呟きが高速で流れて消費されて行くコンテンツなど典型的ですね。

しかし、「与えられ」「命令され」「考えない」ことの行きつく先は、アイヒマンです。

知識を得た者は・・・

ビーティ隊長(署長)の立ち位置が不思議だという意見がありました。

彼は大変博識で、知的な人物として描かれ、モンターグの俄か知識では全く歯が立たない人物です。

そんなインテリの彼が、焚書官として知識を狩る側にまわっているのが不思議だという。

知識があっても知識を守るとは限らないという逆説があります。

あるいは知識の独占。

これは、「由らしむべし知らしむべからず」(論語)の古から、一般大衆には知識(本)を与えず、権力側は知識を独占しているような状態を暗示しているのかもしれません。

確かに、いくら本を焼いても、ちゃんと科学技術は維持されているのだから、華氏451の世界は権力の側は知識(本)、特に技術知識を独占している形態ではないか、と。

経済合理性と人文知の狭間で

なぜ、知識があっても、その知識を独占したり、支配にばかりに使うのか?

それは、その知識によって得られた「合理性」を「正しく」導く「哲学」(人文知)の不在ないしは排除が原因ではないかと。

これは、現実の社会を見ても、明らかで、企業は、人々を、一種依存させる嗜好品を作り出そうと、躍起になっており、それを、「合理的」マーケティングする。

ところが、その当の企業家は、その「合理性」の問題点を承知している。

「スティーブ・ジョブスは、自分の子供にiPadもiPhoneも与えなかった」

これ、本日のお話のキーワードです。

ビーティとジョブスがどこか重なり合う。

大衆が知識を独占している権力に支配される華氏451の未来のアメリカ合衆国。

消費者が合理的マーケティングに支配される現代の資本主義社会。

与えられた快楽によってスポイルされていく点で同じですね。

共に欠けているのは、書物に暗喩される、人文知、哲学です。

小説では、本は権力が焼きに来ますが、現実は自分たちで読むことを止めています。

いや、後者の結果として前者が実現したんでしょう。

その意味で、『華氏451度』は正しく予言の書であろうし、ブラッドベリィの先見性には畏敬の念を抱かざるを得ません。

焚書官襲来?

そんな白熱した議論の中、当カフェ始まって以来の事件が起きます。

制服警察官が入室してきました(!)

全員固まります。

「あれ?華氏451に熱中し過ぎて、焚書官のいる世界線に迷い込んだかな?」

とSF的展開というか異世界転生モノを想像していますと、

policeman

「すみません、巡回連絡なんですが・・・」とお巡りさん。

(巡回連絡は、交番の警察官などが受持地区の住宅を訪問し、家族構成や防犯状況の聞き取りを行う事)

あ、そういうことか。と一同胸を撫で下ろし、会場の管理室をご案内。

まったくの偶然とはいえ、よりによって、このテーマの時に・・・。

いやあー、華氏451度や図書館戦争の中の愛書家の気持ちを、一瞬知ることが出来た良い機会でした(笑)

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