今回は初の試み、参加者の方々に、テーマに沿った本をご持参いただき、それを紹介。
その後に、本紹介を踏まえて、哲学対話をしてみようという、試みでした。
ご参加いただいた皆様ありがとうございます。
東浩紀『弱いつながり』
まず、私の方から、「旅」に関して、哲学的に考察した本を1冊ご紹介。
思想家の東浩紀の『弱いつながり~検索ワードを探す旅』。
本書のキーワードは「観光客」と「環境」です。
人生には、二つのタイプがあり、それは「村人タイプ」と「旅人タイプ」です。前者は定住、保守(安定)なのに対し、後者は非定住、放浪、不安定となります。
この両者を行き来きするのが「観光客」タイプです。
観光客は無責任に観光します。時に不謹慎です。
しかし、その軽さ故に、新しい発見や思いもよらない言論を生み出します。
それは、自宅のネットの前ではなかなか出て来難い。
なぜなら、ネットは、直接「モノ」に触れている、見ている、体感している訳ではないので、グーグル検索の予測範囲に拘束され、自分の趣味嗜好・思想に拘束されます。
人は見たいものしか見ない。
ところが、観光は、置かれた「環境」が変わるため、否応にも、見たくないものを見て、触れて、体感することを強いてきます。
ここに、モノの優位性、旅の優位性があります。
東は、一度きりや面識がないようなお互いのことが無知な状態の人間関係を「弱い絆」(弱いつながり)と称して、その偶然性・未知性を重要視します。
詳細は本書に譲りますが、大変わかりやすい文体の良書です。
ぜひ一度、出来れば、どこかに旅立つ前に、または旅のお供にお読みください。
以下、他に紹介された本です。
リチャード・バック『イリュージョン』
「カモメのジョナサン」で知られるバックの小説です。
参加者様はバックパッカーで世界中を旅していた(!)そうです。
その旅の途中、中国雲南省で、たまたま出会った日本人の旅人と読書の話になり、「カモメのジョナサン」が好きだという話をしていたら、「たまたまこれ読み終わったから、よかったらどうぞ。カモメのジョナサンが好きなら、きっと気に入ると思うよ」と、譲り受けた本だそうです。
その方とはそれっきり。
でも、本には感動して、一生の宝物になったそうです。
まさに、旅は一期一会。
東浩紀に言わせれば「弱い絆」。
ちなみに、参加者様が読んだ村上龍訳は現在絶版とのこと。
星野道夫『旅をする木』
動物写真家として有名な星野道夫の旅を巡るエッセイです。
この本で、「旅をしているときに、ある風景に感動した時、それを大事な人に伝えるにはどうすればよいか?」という問いがあり、その答えは、「絵を描くのもいい、手紙を書くのもいい、でも、一番は、自分が変わることだ」という内容が印象に残ったとのこと。
昔から旅は人を変えると言いますね。
環境の力そのもの。
江戸川乱歩『押絵と旅する男』
江戸川乱歩の短編です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/
あらすじは上記リンクをご覧ください。
旅は「非日常」です。
その非日常で、さらに「異界」に出会うお話。
本作は「絵」に入ってしまうことが、まずもって「旅」と言えるでしょう。
参加者の方は、この車内の様子が教会堂のイメージであることに注目されていました。
それは厳粛で荘厳で、どこか仄暗い。
そういえば、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の社内も似たようなイメージですかね。
列車に、我々は特別な意味を与えているのかもしれません。
『シャンタラム』 グレゴリー・ディヴィッド・ロバーツ
インド、インド、とにかくインド。
あと、暑いし、熱い!
そんな小説です。
インドに流れ着いたオーストラリアの脱獄囚が、ボンベイの貧民街を中心に様々な人々と関わり、施し、施され、助け、助けられ、恋をし、戦い、守り、傷つき、癒される、壮大な物語です。
徹夜必至、黙って読め、が書評レビューで頻出する大著です。
一番驚かされるのが、主人公の人生は、これ、そのまま作者の人生(つまり、自伝なんです)。
「弱いつながり」としての哲学カフェ
いかがだったでしょうか?
哲学カフェや読書会といった場は、どんな人がいるのか、始まってみなければわかりません。
故に、どんな本が紹介されるか予測不能です。
この偶然性こそ「弱いつながり」です。
あなたの日常では、出会えない本に出会えるチャンスと言えるでしょう。
そう、哲学カフェに来ることも「旅」なのです。
是非、今度はあなたが小旅行に来てください。