当哲学カフェの公式メールマガジン「アテナイの路地裏」から、過去配信回を限定公開いたします。
今回は、2025年11月6日配信「アテナイの路地裏」No.87、「『すばらしい新世界』と『国家』」です。
《以下転載》
こんにちは
主宰の藤澤です。
10/25は
ディストピア特集で、
前半回の『1984年』に続いて
ハクスリーの『すばらしい新世界』をテーマに
読書会を開催しました。
個人的には
好きなSF文学の
ベスト5に入る作品です。
この作品のテーマは
完全なる「安定」「平和」と
不安定で未知の「自由」の
二者択一の時に、どちらを選ぶべきか。
換言すれば
「秩序」を採って不自由と無知に甘んじるか
「無秩序」を採って自由と知識・芸術を得るか
ということです。
前者をとったのが、
この世界の支配者である世界統制官会議で、
後者を渇望したのが「高貴な野蛮人」ジョンでした。
本作は、
この絶対的な世界国家のロンドンに、
保護区から連れて来られたジョンの葛藤の物語です。
終盤に、
世界統制官ムスタファ・モンドとジョンが、
シェイクスピアの引用を挟みながら、
持論を戦わせるのが、本作の白眉です。
この世界は
苦にならない少しの労働と
毒性のない常用麻薬とフリーセックスで、
人生を最初から最後まで謳歌できる。
もちろん、
貧困も戦争もありません。
しかし、
ジョンは疑問を投げかけます。
大衆に、
快楽だけを与えていて、
それで人間といえるのか、と。
モンド自身は
博識な、学芸にも通じている人物ですが、
彼は、それは安定と平和のための代償だと言います。
この辺りの
ユートピア観の源流は、
明らかに古代ギリシアのプラトンです。
彼の理想国家を論じた
『国家』は哲学史上最大の問題作とも言われる。
プラトンの理想国では、
人間の本性(性質・素質)には、
金銀銅鉄の区別があり、
これを見極めて、
それに相応しい職業・階級に
振り分けることが最も重要だと説きます。
金の者は統治階層
銀の者は軍人
銅鉄は商工農
国家は船であり、
船長に相応しくない者を
その地位につけると遭難します。
一方、
『すばらしい新世界』の国家は、
遺伝子工学によって、
胎児の段階から素質・才能・嗜好を
コントロールし、適切な階級へと
産まれ落ちるように仕組まれています。
これほど、
楽な統治はないでしょう。
金銀銅鉄を
恣意的に管理できるのですから。
しかし、
そのような世界で、
自由意志が存在し得るのか。
自由意志なき人間に
尊厳はあるのかと問いかけられるのです。
読み手によって、
ディストピアか
ユートピアか
180度評価が変わる物語なのです。
【参考文献】
プラトン『国家』岩波文庫
藤沢令夫『プラトンの哲学』岩波新書
≪転載終わり≫
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